主要文明の一角を占める日本文明
会長:小原御郎
3分間スピーチ「日本を語ろう」
海外に行って自国のことを大いに語ってください。
国際政治学者のミシュエル・ハンチントンが、世界を主要な文明圏に分類し、東西冷戦後の世界の姿を予測した「文明の衝突」という本があります。
それによると、世界の文明は西欧、中華、日本、ヒンドゥー、イスラム、スラブ、ラテンアメリカの7つに分けることができ、そのうち日本文明のみがひとつの国によって構成されていると指摘しています。ハンチントンの理論が正しいかどうかはさておいて、日本が他の文明圏とは異なる独特の文明を有していることは事実だと思います。
日本文明は2世紀から5世紀において、中華文明から強い影響を受けたことはまぎれもない事実です。しかし日本語と中国語は大きく異なる言語です。書き言葉には、ヨーロッパの国々の言語がラテンアルファベットを取り入れたのと同じように、漢字という中国で生まれた表意文字を取り入れました。ただ、日本人は外来の文化を取り入れるだけではなく、独自の工夫をこらして新たな文化へと発展させました。日本語の語順や語法を変えないで漢字に日本独自のかな文字を組み合わせ、世界でも類例のない言語体系を確立させたこともその一例です。
文化がまとまったのが文明だと定義づけられていますが、そこに住む人々の考えや行動の集大成こそが文明だと言えます。ではなぜ日本人は世界のどの文明にも所属しない、独特の文明をもちえたのでしょうか。ひとつは神話の時代から続いているとされる天皇が、国民統合の中心的な存在であり続けてきたことがあげられます。王朝が変われば、国の形も変わります。そして、それまでの文明が否定されることが多々あります。その点、歴史に断絶がなかった日本は、ひとつの文明圏が形成されやすかったといえます。
また四方を海に囲まれているという地理的特性も見逃すわけにはいきません。朝鮮半島との間にある対馬海峡の幅は約200kmもあり、大軍が渡るわけには大きすぎたと言えます。
さらに日本人独特の宗教観も独自の文明を作り上げた大きな要因でしょう。もともと日本人は古神道、つまり自然のあらゆるものに神が宿るという自然信仰をベースにしていましたが、6世紀頃、仏教が入ってきた際、「自分たちが拝んできた八百万の神は、仏教の仏様の化身でもあった」とし、ほんとうにいいものは別のところで形を変えて現れると考えました。これが神仏習合です。それによって宗教戦争にならずに済んだのです。
しばしば日本人の宗教観は「なんでもアリ」で節操がないと言われますが、このおおらかな宗教観があるからこそ、日本に入ってきたさまざまな宗教が争うことなく発展してきたのです。現在、世界にはさまざまな宗教紛争がありますが、それらを解決するヒントになれば幸いです。
ひとくちメモ
◆世界の文明と言えば、学校の教科書に出てくる「4大文明」を思い浮かべる人も多いでしょう。世界最初の文明と言われているのが、ティグリス・ユーフラテス川流域に発生したメソポタミヤ文明。次いで、ナイル川流域のエジプト文明、インダス川流域のインダス文明、そして黄河流域の黄河文明です。
これら4つの地域に共通するのは、温暖な気候であったこと。大きな川の流域で土地が肥えていたため農業が盛んだったこと。しかし文明とは皮肉なもので、人が生きるために適した環境だったことで人口が増え「支配者―被支配者」「富める者―貧しい者」といった階級が生まれます。やがて特定の権力者がまとまった集団を統治し、外敵から身を守るために武器を持つようになります。
◆対馬海峡の幅は約200km,フランスとイギリス間にあるドーバー海峡の幅は約30kmです。